7人が見る世界を。

ただただ彼らについての思いを吐き出します。おろろろ。 @west_choco1101

「背中合わせの2人の出会い」㏌関西図書基地

 

  「今年の新人に目つきの悪いやばい人がいるらしいよ」
    「ね、あれじゃない?」 
    ざわざわとささやかれる噂の声。
    12時半の食堂は午前業務を終え、腹ごしらえをしようとする隊員たちで溢れ返っていた。その中でも自分宛ての噂をする声はよく響く。神山はそっとため息をついた。
    「聞こえてるっつーの」

 

   神山智洋は大学卒業後、希望通り関西図書基地防衛部に配属された。しかし、その目つきと明るい髪色、耳にいくつも空いたピアス穴のせいで入隊直後から浮いた存在になっていたのは否定しようがない。
    とは言っても目つきはどうしようもないし、大学生時代に何度も染色した髪は暗くしても赤みが出てしまう。ピアス穴は簡単には塞がらない。特別気にしていなかったが、神山の周りではこの身なりは問題児とされてしまうらしい。
    耳に穴が空いてるからなんだ。それが業務に関係あるのか。アクセサリは付けてないのだからいいだろ。髪色だって入隊する時に上官にも確認して了承を得てる。


   昔から正義感だけは強かった。自分がそれでいいと思ったことは意地でも曲げなかった。似た性格の叔父さんから聞く図書隊は悪を倒す正義そのもので、幼いころから憧れの存在だった。その図書隊にようやく入れたのだ。余計な騒ぎを起こしたくないという思いが強かったのだ。憧れの場所で人間関係が充実した生活を送る気がないと言えば嘘になるが、自分の見た目が相手にどんな印象を与えるのかは把握済みだ。自分が誰にも邪魔されず防衛業務に励めるならそれで良いと思い、周りに刺激を与えぬよう静かに日々業務をこなしていた。

 

    俺はただ、ここで本を守る仕事をしたいだけなんやって。

 

   そんな心の声を食堂の片隅から吐き出す。

 

 

    ある日、担当の教官に呼び出された。
    誰もいない会議室で大阪弁なまりの教官が口を開く。
   「神山、関東図書基地に移らんか?」
    教官に呼び出されて静かな職員専用通路を歩いていた時から嫌な予感はしていたがこれは…。
     移動は珍しい話ではないが、まだ新人期間中の自分が移動になるというのは予想外だった。

「俺がですか?」
「もちろん1人でとは言わん。防衛部にお前と同期の重岡っていう奴がいるんだが、そいつと2人で行け」
「ちょっと待ってください。話が急すぎますって」
「分かってる。もう少ししたら正式に発表があるから、その前に耳に入れとこうと思ってな。安心しろ、まだ時間はある」

   安心しろと言われても内容が突飛だ。どうしてこの時期に俺が移動するのかという疑問で頭がいっぱいになる。

「どうして俺なのか聞いていいですか?」

   恐る恐る教官の顔色をうかがう。何か問題を起こしてしまったのだろうかと思うと身が縮まる。

   「いや、島流しとかそういう話やないで」
  
    神山の不安を悟ったのだろう。教官はそう言うと息を吐いて神山の目を見る。いつもこの目には射抜かれそうになる。教官の目は真っ直ぐで芯があって強い。

   「神山。正義感に溢れるのはいい。だが1人で突っ走るのは違うやろ。1回周りを見てみろ」

  環境を変えたらいいきっかけになると思ってな、と教官が言葉を繋ぐ。その言い方は神山を息子として正しい道に進んで欲しいと願う父のようだった。

   しかし、動揺しすぎて環境を変えたらという言葉が耳に入ってこなかった。ずっと避けてきた周りを見ろという強い言葉が俺の胸を強く突いた。

 

    ドンッと全身を叩かれたみたいだった。俺の噂なんかをしてる奴らと関わるだけ無駄だとずっと思っていた。でもそれは辛いことから逃げているだけなのだろうか?そんな恐ろしい考えが頭をよぎる。周りの人と話す自分を想像するだけで気分が悪くなって、堪らず下を向く。まだ数回しか履いていない指定の革靴が鈍く光っていた。

 

「分かりました」

 

   混乱した頭のまま、失礼しますとだけ言って俺は部屋を出た。


    会議室を出て誰もいない廊下を歩いていると大きな声が聞こえた。

   「なぁ、ちょっと!」

   振り返ると黒髪の青年がブンブン手を振りながら近づいてきた。身長は俺より数センチ高く174cmくらいだろうか。くそ、負けた。
  神山くんやんな?と爽やかな笑顔で俺の顔を覗き込む。今まで出会ったことのない人種だ。

   しかし、あの話の直後で気分が上がらず、どうしても暗い声になってしまう。

  「そやけど何か用ですか?」
  「俺な重岡って言うねん!一緒に関東に行く重岡大毅。話聞いてへん?」

   思わずバッと顔を上げる。さっき聞いたばかりの名前に動揺する。目の前にはニコニコと笑う男がいた。この男が一緒に関東図書基地に移動する奴なのか。改めて顔を確認する。
   ハッキリした二重に濃い眉毛、笑うと出てくる歯は人よりよく見えた。体も鍛えているようで胸板が厚いのは制服の上からでもよく分かった。

 

「これからよろしくな!」
「…よろしく」
「俺な、関東で誰よりも早く昇進してタスクフォースに入るのが夢やねん。一緒に頑張ろうな。あと神山くんのことも知りたいから教えてな」
「俺のこと?」
「うん、知りたい。神山くん今年の新人エースなんやろ?」

 

    声を弾ませて俺に握手を求めるの手を握ると、そのままブンブンと上下に振られた。強く真っ直ぐな目で見つめられる。その目はちょっとトラウマだからやめて欲しいな。

    それからタスクフォースがどれだけ凄くて強者揃いなのか熱く語られた。憧れの先輩は進藤さんという隊員らしい。最後に俺と一緒にタスクフォースに入りたいと話を締めると、練習に戻るわ!と言って、また手を左右にブンブン振り回しながら重岡は去っていった。裏表のないタイプなのだろうか。あまりの勢いに気圧されてしまった。

 

「あんな人、ここにおったんやなぁ」

 

   独り言を吐くと、気分がさっきより軽くなってることに気づいた。彼と話したからだと気づく。
    重岡のような目立つタイプなら大抵の人が知っているのだろうが、全く周りに興味がなかったから知らなかった。さっき握られた手のひらを見て少し笑う。俺は本当に周りを見てなかったんだな。

   思えば、重岡は俺の髪色もピアスに見向きもしなかった。俺に興味がある人は沢山いたが、みんな好奇心や野次馬ばかりだった。純粋に俺を知ろうとしたのは大阪弁なまりの教官と2人目だ。

 

 

    関東にも彼のような面白い人いるかな。いたら頑張って話しかけてみようかな。

    先程より軽い足取りで俺は廊下を歩き出した。




 

 

そう、これは関西で出会った2人の最初の話。





関西図書基地 防衛部 所属 一等図書士 神山智洋

関西図書基地 防衛部 所属 一等図書士 重岡大毅